樹脂素材と異種素材を組み合わせたマルチマテリアル化

 地球温暖化の抑制のために、CO2 排出量のかなりの割合を占める自動車等から排出される CO2 を低減することが世界的に要請されています。国内年間CO2排出総量は約12億トン。うち運輸部門は約17.4%(約2億1300万トン)を排出。自動車は運輸部門の86%を占め、日本全体の約15%を排出しているそうです(参照:資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」)。

こうした中、自動車等の構造材料の軽量化を目的に、金属材料から高分子を中心とする材料の転換が検討されていることはご存知かと思います。

しかし、高分子等によって軽量化を実現しても、材料本来の要求特性である強度や耐久性を維持できないと、単一材料の使用に置き換えることは困難となります。

そこで、樹脂素材と異種素材を組み合わせたマルチマテリアル化に向けた取組が活発に行われており、「樹脂素材と異種素材との接合技術」が注目されています。

 マルチマテリアル化の共通基盤的課題となる、「設計技術」、「接合・接着技術」および「計測・評価技術」については、協調領域として産総研・大学を中心に横断的に取り組み、各企業の安全性に関わるデータや知財等を集約して研究開発が既に行われています。

 今回は、その中でも特に「接合・接着技術」についてご紹介いたします。

「接合・接着技術」には、主に①接着剤接合、②加熱接合、③機械的接合があります。

①接着剤接合

接着剤接合では接着剤の硬化により接合させるため、有機溶剤の環境への影響、接着剤の経年劣化等の対策が必要となります。主にウレタン系、エポキシ系、アクリル系などの樹脂を用い、継手形状や寸法自由度が大きいのが特長ですが、接着剤は消耗品であり、接着剤の溶媒溶液の安全性さらには接着剤固化時間の確保などの技術的課題が残るのが欠点です。

②加熱接合

加熱接合では、高周波加熱により金属材料を加熱して熱可塑性樹脂素材を局所的に溶融して接合する方法や、透明樹脂素材の場合はレーザービームを照射して接合する方法があります。

加熱接合で最近注目されている技術には、溶融した樹脂素材を金型に高圧で注入して成形する射出成形を応用したインサート成形法があります。金属等のインサート材の表面処理を行い粗面化することにより、樹脂素材とのアンカー効果により接合強度を高めることができる方法です。この方法は金型を使用するため形状やサイズに制約があり、大型部材や複雑な形状の部材への適用が難しいのが難点です。

③機械的接合

機械的接合ではリベット・ボルト・カシメなどを使用して結合する方法です。継手形状、寸法自由度が大きく、熱可塑性・熱硬化性樹脂にも適用できるという点が特長です。一方で、工程が非効率的で、かつリベットやボルトは消耗品のため、そのコストの問題などが欠点となっています。

 さらに最近の技術動向として、GFRP(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plasticの略で、ガラス繊維を樹脂で固めた素材で、ガラス繊維強化プラスチックのこと) や CFRP(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plasticsの略で、先端複合材の中でも最も注目されている炭素繊維強化プラスチックのこと) 及びセルロースナノファイバー強化プラスチック等との異種接合への適用が注目されています。

特に、CFRPは、軽い、強い、硬い等の力学的特性に優れるばかりでなく、熱的安定性、化学的安定性、X 線透過性、電磁波特性等の機能的特性にも特長を有し、鉄やアルミニウム等の金属に代わる先端材料として多くの分野で実用化が進んでいます。

今後、鉄やアルミニウムと CFRP のマルチマテリアル化による最適構造の開発も進展し、CFRP をはじめとした樹脂素材と異種素材との接合技術は不可欠な技術として採用されていくものと考えられています。

地球環境の保全や省エネルギーが一層求められる今後は、技術開発も進み、応用分野が更に大きく拡大するものと期待されている技術です。

最後に、「樹脂素材と異種素材との接合技術」に関する全世界の特許状況は、日本企業が世界全体の40%以上を占める割合で出願を行っており、特に中国への出願が増加傾向にあります。課題別にみると、

「接合特性」の課題は、日米中韓国籍出願人は「強度」、「耐久性(耐候性)」、「軽量化」、欧州国籍出願人は「強度」、「軽量化」、「耐久性(耐候性)」の順に件数が多い。欧州国籍出願人は「軽量化」に関する件数比率が高いという特徴があります。

「接着」の課題は、日米欧中韓国籍出願人共に、「接着強度」に関する件数が多く、

「生産性」の課題は、日米中国籍出願人共に、「コスト低減」、「プロセス短縮・簡略化」、「正確・精密接合」、欧韓国籍出願人は、「コスト低減」、「プロセス短縮・簡略化」、「保持時間・タクトタイム低減」、に関する件数が多いそうです。

「リサイクル性向上」の課題は、日米欧中韓国籍出願人共に「材料リサイクル性向上」に関する件数が多く、日本国籍出願人は「易解体性」や「外観・装飾・意匠性」に関する件数が多いという特徴があるようです。

 以上のことから、各国の主要技術に関する特許課題から、「強度」、「耐久性(耐候性)」、「軽量化」、「コスト低減」および「材料リサイクル性向上」のキーワードを見出すことができます。

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